岬ちゃんのこと(「NHKにようこそ」2次創作SS)

 僕が彼女と契約したのは、95年の寒い寒い冬だった。なんのことはない、普通の雪の日だった。  だが僕達は全く普通でなかった。いや、そう思いたい、ってことか。

僕と彼女は付き合う、、のでなく、お互いの命を人質にする契約をした。つまり、どちらかが死んだらもう片方も死ぬ。僕が自殺したら岬ちゃんも死ぬし、岬ちゃんが死んだら・・・たぶん僕も死ぬことになる。けどまあ、それは重要ではなくて、岬ちゃんの自殺を食い止めるには僕が自殺しちゃいけないんだってことが重要なんだ。  だから僕らは、陽気に生きなければいけない。そう、僕らは人質なんだから。

でもさ、待てって。俺たちって何にも解決してないじゃないか? 僕は相変わらず無職だし、岬ちゃんはよくわからないけどメンヘラだし、もう約束なんて忘れてるんじゃないかってくらい、リスカの写真が送られてくる。  はぁ、、、やはりひきこもりの無職ニートにはなにもできないんじゃないか!!ちくしょう!!

僕は確実に死に向かっていた。僕も真似をしてリストカットというやつをして、岬ちゃんに送ってみた。  結構本格的にやったんだぜ!うおおおお送信だ!! 夜中にキメた薬でハイテンションになっていた俺は、意気込んで送信した。  ああ、気持ちいなあ?これが生きてるってやつだよなあ?岬ちゃんはこれを求めていたのかぁ。なかなかだぜ。いい度胸してんなあの娘も。近頃の若者にしてはキモが座っている。

だが、だが、だが。

痛い

「めっちゃいってえええよ!! ふざけんなよ岬!! なにが死にたいだよ!こんなんで死ねんのかよ??無理に決まってんだろ!!痛い痛い痛い痛い!!もう痛いだけじゃねえか!!金返せ!!!」

そう心の中で叫びながら、ボロアパートでのたうち回っていた俺だ。

返信は 「痛そうだね」

はぁ???痛そうだねじゃねえよ!なんかそれ以外の人間の感情ってあるだろうが!俺はいつも優しく、ジェントルマンな感じで労っている(ふり)をしているだろうが!!そっちもそれくらいはなあ!礼儀ってもんがあるだろ!

これが、次の年の冬だった。