短編:ぼくらの補完
たゆたう波の間。
起きているとも寝ているとも言えない意識。おぼろげな意識。
そこで僕らは手を繋いでいた。
波は気持よく、そこに浮かんで溶けているような心地がした。いつしか僕は何も考えず、そこにただ「在る」ようになった。
隣にいるのは誰?
わからない
温かい手?冷たい手?
時折強く握られるようにも感じる
しばらく漂い、いつしか砂浜に打ち上げられた
「ねえ、・・・?」
何かが聞こえたが、言葉がうまくわからなかった。
「ねえ、・・・した・・ある?」
よくわからない
「よくわからないよ。なんて言ってるの」
自然と言葉が出てきた。
しばらく無言のあと
「ねえ・・・キスしたこと、ある?」
キスしたことある?そう聞こえた。
あるようなないような。
「よくわからない」
「ねえキスしましょうよ」
いきなり唇が押し付けられた。息ができない。
顔を見たら、知っている娘だった。嫌いじゃない。キスをしている。
「で、どうなのよ?」
「うーん、いきなりわからないよ」
意識はまだおぼろげだ。
そしてまたたゆたう。
砂浜で手をつないだまま、その娘と寝転んで夜空を見ていた。
夜空は血に染まり、星が流れ、美しかった。