滑空①

……洋上を走る滑空機のようなものが見える。
 
それは編隊をなし、地平線のかなたまで何も見えぬだだ広い海を一定の高度で進んでいた。
 
薄く青い煙を不気味に放ちながら、静かな音で進んでいる。
 
「大世界転移」の起こる前、この地球は丸かった。人々は海を渡り、世界を一周することができたという。海と海はただの隔たりでしかなく、多くの国は交易で栄えていた。
 
しかしそれを知るものは今はいない。大昔の航海士だった僕の家系ではその昔の海図を大切に保管していたが、奇妙にそれは平面に書かれていた。その端と端は繋がっていたというのだ。
 
世界が転移して以降、それは数千年も前のことだが、地球は平面になった。いや、それが平面であることを確認できた者はいない。何しろ海の向こうから帰ってきたものはいないのだから。
 
空の向こうには星々があり、宇宙があった。実際に宇宙にいった人々もいたらしい。しかしいまや空は時折明るい時間を持つのみで、星などは見えぬ暗黒の世界だった。
 
科学者によれば、宇宙は物理法則の高次の乱れに見舞われ、いままであった秩序はすべて破壊されてしまったのだと言う。この地球がかろうじて生き残っているのも奇跡かもしれず、またいつこの空間そのものが崩壊するかも予測ができなかった。何しろ数千年前の物理学は一切役に立たなかったのだから。
 
かろうじて重力と呼ばれるものがあり、物質と呼ばれるものがある。そしてなんとか人々は暮らしていた。
 
いま、僕が乗っているこの艦隊は、無謀にも海を渡ろうとしている。無限とも言えるこの世界で、かすかな希望をもとに、精鋭の乗組員たちと、わずかな科学者、戦闘員、そしてなぜか僕を載せて、日夜ある方向へと滑空しているのだ。