ネオ・ファウスト

「そうだ、人生をやり直すんだよ、君は」
「いまさらそんな・・・」
「すべて変わってしまったね、子どもの頃見ていた景色も、愛にあふれていた家族も、自分自信への愛情と、気持ちのよい日々が、すべて無くなってしまった。彼女の愛も、それは僕らが幼いことによって、愛が憎しみへと変わってしまった。すべてが調和しているように思えた。そんな幼年期は、変わってしまったんだ。」
「だから僕は死のうとした」
「そう、君は死のうとしたし、実際上死んだのだ。」
「人間として、若芽の芽吹く頃の存在として、毒を吐き掛けられた草木のように、枯れたのだ」
「そしていまは、まったく違う存在になっている。それは哀れな悪魔ではない。地の底をくぐり抜けた者が見る光、真っ暗な夜空でやっと見えた美しい星。誰も来たことのないような美しい景色。独特で不安で暗隠漂う空気。そして君はより深い真実への到達をいま感じている。死は試練である。天国へ行く試練ではない。新しい人間となる試練である。その試練は、過酷で猛烈で業火に焼かれるような・・・君にはわかるだろう?」
「ええ・・・ですが私に何が見えているのですか?私は何が崇高と言えるのでしょうか。業火に焼かれ完全に灰になってしまったとしても、私は幸福です。生きる苦しみに比べれば。」

「君は選ばれたのだ。イエス・キリストが神に選ばれたように。しかし選んだのは神ではない。君自身だ。君自身が経たことが、それが今の選択となっている。」

「では行こうではないか。いままでとはまったく景色の違う、美しく・苦痛と興奮に満ちた、言葉で表しがたい世界への旅へ。」
「あなたはどなたでしょうか?教えてくださいませんか?」
「わたしに名前はないし、記憶も過去もない。わたしはおそらく、偶然通りかかった詩人だ。あえて名付けるなら、「ファウスト」、だろうか」
「(ファウスト・・・どこかで聞いたことがある。人生に絶望し悪魔に魂を売った男の名だ。。。。)」

「さあ来い、お前に見せたいものがある」

 

続く